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東芝クレーマー事件とクレーマー悪者論

本サイトはクレーマー対応、クレーム対策、苦情処理をテーマにしているのですから、クレーム、クレーマー、苦情といった語について定義や考え方を整理しておきましょう。

そもそもクレームは英語で、claim、「要求」や「自らの正当性を主張すること」の意味を持っています。そのため、商品やサービスに不満を感じたときに、「要求」や「正当性を主張する」という意味で、日本語の「苦情」とほぼ同じ意味も持っています。しかし、英語のほうがもっと広い使われ方をしています。たとえば、損害賠償請求や特許請求の範囲の記載をクレームといいます。これらは「正当性を主張する」とう意味で使われています。

そのそも、クレームという語にはマイナスイメージも、プラスイメージもないのですが、日本語ではかなりよくないイメージがついています。いわば「不当な強迫」という使われ方をしています。これはメディアの影響が大きいと考えられますが、多くの人がサービス業についている日本の労働状況をみると、「自分が店員だったら・・」「担当者だったら・・」という見方が日本人の多くに潜在的にあるのではないかとも考えられます。お客様の立場ではなく、店や会社側の立場に立って考えているのでしょう。

このような日本人の意識は、クレームやクレーマーを活用して、顧客満足を向上させていこうという本サイトの趣旨から言うと、きわめて危険だといわざるを得ません。クレームやクレーマーは大切な経営資源で、彼らの存在によってはじめてサービス、商品は品質が向上するのです。クレームも苦情もない世界は進歩が緩慢になるでしょう。

確かに、過剰なクレームを要求する人々の存在も否定できません。そこで、適正なクレームマネジメント、クレーマーマネジメントが必要になるわけです。どのクレームが顧客満足に適切に役立つかどうか、そして、セキュリティからみて不適切なクレームかを判断するのはクレーム担当のマネージャの基本的なリテラシです。大企業では、通常の業務として対応ができない「総会屋」などを担当する「渉外監理室」が悪質なクレームを担当する傾向があります。彼らのようなアンチクレーマー的な姿勢もクレームマネジメントには含まれますが、大切なことは、彼らの多くは警察OBであり、渉外監理室などの組織は主に反社会的集団に対する企業の防衛組織であるということです。


日本で、クレーマーという語を広く知らしめるきっかけになったのが「東芝クレーマー事件」です。クレーマーという語に悪いイメージがついたのも、この事件によるところが大きいのです。東芝のビデオデッキを買っていた消費者が修理依頼をしたところ、東芝の担当者が暴言を吐き、反社会集団のような応対をしたというのが、事件の発端です。交渉の経緯が録音され、「東芝のアフターサービスについて」というウェブサイトで公開されたことで、後に東芝不買運動へと発展しました。

東芝の担当者が発言した、「お宅みたいな人は“お客さん”じゃないんですよ。お宅はクレーマーなの。(※この発言は、やわらかい表現に編集してあります)」という文句は「クレーマー=不当な要求者」という語感を広めることになった件(くだり)といえるでしょう。

週刊文春は「ホームページ事件真相スクープ―東芝に謝罪させた男は名うての「苦情屋」(クレーマー)だった!」という記事を掲載して、クレーマー=悪者というイメージを広めました。

このように、不幸な事件をきっかけに「クレーマー=悪者」というイメージが定着してしまった日本ですが、少なくとも専門家の間ではそのような幼稚な発想はやめて、合理的なノウハウの蓄積、知識の整理が行われることが必要です。